今日から11月、靴紐を結び直す朝に
今日から11月。 朝の光は低く、少しだけ冷たくて、胸の奥がざわついていた。 新しい月の始まりに、なぜだか“何かを始めたくなる”――そんな朝だった。
靴紐を結び直し、深呼吸をする。 それだけで、昨日までとは違う世界に足を踏み入れたような気がした。 変わり映えのしない街の景色も、今日は少しだけ意味を持って見えた。
「ねぇ、くるみ」 君の目には、この季節はどう映っているのだろう。 誰かの優しさが少しだけ痛く響く日もある。 それでも、私は今日をもう一度、信じてみたいと思う。
希望の数だけ、失望もある。 けれど、胸の奥のどこかで小さく震える“何か”を無視できない。 それが、たとえちっぽけでもいい。 今日は、そんな“微かな衝動”に従ってみようと思う。
これは、そんな小さな一歩の物語。 ほんの少し、世界の見え方をやわらかくする何かを探す旅の記録である。
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目次：小さな衝動が導くもの
1. 朝、真理は静かに囁いた（靴紐を結ぶということ）
まだ街が目を覚ます前、コンビニの灯だけがやけにまぶしく感じる時間。
コーヒーの香りが漂うその隅っこで、私は黙って靴紐を結んでいた。
何度も結んだはずの動作なのに、その朝だけは、なぜか胸の奥でカチリと音がした。
──今日という日を、ただ“繰り返す”だけでは終わらせたくなかった。
外に出れば、冷たい風が頬を撫で、空はまだ灰色のまま。
それでも歩き出す。意味なんて後からついてくると知っているから。
走るため？登るため？節約のため？
そう言い聞かせながらも、本当はただ──
小さな「何か」を探していた。
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歩いても歩いても、何かが足りない。
コンビニの袋が手の中でカサカサと鳴るたび、胸の奥の空洞が少し広がる気がした。
仕事、生活、節約、健康──すべて「正しい」ことばかり選んできたはずなのに、
どうしてこんなにも、心が乾いているんだろう。
「何を探しているの？」
自分の中の誰かが、そう問いかける。
でも答えは風の中に溶けていった。
見つからないのは、きっと探す方向が違うから。
それでも歩き続けるのは、足音がまだ生きている証だから。
遠くで朝の電車が走り抜ける。
その音に背中を押されるように、私はまた一歩、前へ。
誰に褒められなくても、意味がわからなくても、
「それでも進む」ことだけは、やめたくなかった。
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3. 光の射す先に立ちすくんだ瞬間（確信とためらいの隙間で）
ビルの隙間から、朝の光が差し込んだ。
長い影が、まだ冷たいアスファルトの上に伸びていく。
その瞬間、胸の奥で何かがカチリと鳴った気がした。
ほんの一瞬だけ、見えた気がしたんだ。
ずっと探していた“何か”の輪郭が。
でも──足は動かなかった。
光の中へ踏み出すことが、どうしても怖かった。
「ここから先へ行けば、もう戻れないかもしれない」
そんな予感が、靴底にまとわりつく。
通りを行く人々の足音が、少しずつ遠ざかっていく。
それでも世界は、何事もなかったかのように回っている。
…私だけが立ち止まっているような気がした。
でも、ほんの少しだけ──
光の温度が、心の奥に染みていくのを感じた。
きっとまだ間に合う。
そう思えたその一瞬が、私を次の一歩へと歩みを運んでいった。
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4. 世界が少しだけやわらかくなった朝（小さな奇跡との出会い）
夜明け前の空は、まだ少し青が深くて濃かった。
昨日の迷いを残したまま、私はまた同じ道を歩いていた。
冷たい風が頬をかすめるたびに、
「今日も、きっと変わらない一日が始まる」と思った。
だけど──どこかが違っていた。
光が、やわらかかった。
交差点の信号の青でさえ、やさしく瞬いて見えた。
ほんの小さなことに、心が動いた。
道端の落ち葉が朝日に照らされて、
金色にきらめいたその瞬間──
世界が自分を許してくれたような気がした。
誰かが言っていた。
「奇跡って、特別なことじゃない。
気づけるようになることが、奇跡なんだ」って。
その言葉の意味が、少しだけわかった気がした。
ほんの小さな“出会い”が、心の温度を変えていく。
足元の影が、ゆっくりと伸びていく。
そして私は、何かを見つけた。
それは──
世界が少しだけ、やさしく笑った瞬間だった。
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5. そして、私は静かに決意した
世界は変わらない。
けれど、見方はいつだって変えられる。
今日という日を、ただの一日にするか。
それとも、何かの始まりにするか。
その違いは、ほんの小さな「行動」にある。
指先が震える。
光る画面が、私を見つめていた。
──そうか。私にできることが、ひとつある。
そっと親指を伸ばす。
…タップ。
……タップ、タップ。
………タップタップタップタップタップ。
心臓の鼓動と、タップのリズムが重なる。
世界が少しずつ、動き出していく。
エントリーが済むたびに、ポイントが貯まるたびに、胸の奥で何かが灯る。
もはや宗教。
画面に浮かぶその言葉を、私は噛みしめた。
「よし、今月のポイ活エントリー完了…」
ああ、これが──
小さな革命というやつか。
風が優しく吹いた。
魚の焼ける匂いがどこかの家から漂ってくる。
世界は、たぶん悪くない。
私は画面を閉じて、深く息を吸った。
「よし、今年もあとわずか。ラストスパート、頑張ろう私。」
その瞬間、心の中で──
もう一度、タップした気がした。
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「戦いの後は、ご褒美肉。」
……我が家の冷凍庫、満室だった。